オープンフィールド試験は、げっ歯類の行動評価でもっとも広く使われる試験のひとつです。装置がシンプルで、不安様行動と自発運動量を同時に見られる。だからこそ多くの研究室で最初に導入されます。
一方で、解析の部分でつまずく人は少なくありません。総移動距離をどう出すか。中心滞在時間の「中心」をどこに引くか。ストップウォッチで手動計測を続けていて、客観性に不安がある。
この記事では、オープンフィールド試験で何を測るのか、そしてそれをどう解析するのかを整理します。無料でできる範囲と、ツールを導入する判断の分かれ目も合わせて扱います。
オープンフィールド試験で何がわかるか
オープンフィールド試験(Open Field Test、OFT)は、四方を壁で囲んだ空のアリーナに動物を置き、その自由な探索行動を記録する試験です。装置は正方形または円形が一般的で、マウスなら一辺40〜50cm程度が使われます。
この試験がみているのは、大きく2つです。
ひとつは不安様行動。げっ歯類は、壁際を伝って移動する性質(thigmotaxis、接触走性)を持ちます。不安が強いほど中央の開けた空間を避け、外周に留まります。逆に、抗不安薬を投与すると中央部の滞在が増える。中心と外周の滞在バランスが、不安の指標になります。
もうひとつは自発運動量。総移動距離や移動速度は、動物がどれだけ活発に動いたかを表します。薬物の鎮静・興奮作用の評価や、運動機能に影響する遺伝子改変の表現型解析に使われます。
シンプルな装置で2つの側面を同時に見られることが、この試験が定番であり続ける理由です。
主要な指標
オープンフィールド試験で一般的に算出する指標を整理します。
総移動距離(total distance moved)
動物が試験時間内に移動した距離の合計。自発運動量のもっとも基本的な指標です。単位時間あたりに区切って、時間経過に伴う活動量の変化(馴化)をみることもあります。
中心滞在時間(time in center)
アリーナを中心区画と外周区画に分けたとき、中心区画に滞在した時間。不安様行動の主要な指標です。中心区画の取り方は、アリーナを縦横に3分割した中央(全体の1/9)や、中央50%など、研究室やプロトコルによって異なります。論文に記載する際は、どう定義したかを明示する必要があります。
中心進入回数(center entries)
中心区画に入った回数。滞在時間と合わせてみることで、「一度長く留まった」のか「何度も出入りした」のかを区別できます。
移動速度(velocity)
平均移動速度。静止していた時間を除いた移動中の速度をみる場合もあります。
外周滞在・接触走性(thigmotaxis)
壁際の区画に滞在した時間や割合。中心滞在時間の裏返しですが、不安の指標として直接報告されることもあります。
立ち上がり(rearing)
後肢で立ち上がる行動。探索意欲の指標とされます。ただし垂直方向の動きは真上からの撮影では捉えにくく、自動解析では扱いが難しい指標です。
このうち、総移動距離・中心滞在時間・中心進入回数・移動速度・外周滞在は、いずれも動物の平面上の位置がわかれば算出できます。ここが、解析方法を考えるうえで重要な点です。
手動計測と自動解析はどう違うか
オープンフィールド試験の解析には、大きく2つのやり方があります。
ひとつは、床にグリッド線を引いておき、動画を見ながら「どの区画を何回横切ったか」を人が数える方法。もうひとつは、動画から動物の位置を自動で追跡し、座標データから指標を計算する方法です。
手動計測は、装置さえあれば追加コストがかかりません。ただし、いくつかの弱点があります。
長時間の動画を人が見続けるのは負担が大きく、集中力の低下が誤差につながります。計測者によって基準がぶれる、いわゆる評価者間のばらつきも避けられません。総移動距離のような連続的な指標は、グリッドの横断回数からの概算になり、精度に限界があります。そして何より、追試や共同研究で「同じ基準で測り直す」ことが難しい。
自動解析は、動物の位置を座標として記録するため、これらの問題の多くを解消します。総移動距離は座標の変化から正確に積算でき、中心滞在時間は区画の定義さえ決めれば機械的に算出されます。同じ動画を何度解析しても同じ結果が出るため、再現性が担保されます。
近年の論文では、自動追跡による解析が標準になりつつあります。客観性と再現性が求められる以上、自然な流れです。
オープンフィールド試験の解析に必要な機能
自動解析ツールを選ぶとき、オープンフィールド試験に何が必要かを整理しておくと判断が早くなります。
結論から言うと、動物の中心点(重心)を1点として追跡できれば、主要な指標はすべて算出できます。
総移動距離は中心点の座標の変化から。中心滞在時間と進入回数は、アリーナに中心区画を設定し、中心点がそこにあった時間と回数から。移動速度は座標の変化と時間から。いずれも「動物が平面上のどこにいるか」がわかれば計算できます。中心区画をどう定義するかは研究室ごとに異なるため、区画を自由に設定・変更できるツールであることが、自分のプロトコルに合わせるうえで重要になります。
鼻先や尾といった身体部位を個別に追跡する機能は、オープンフィールド試験の標準的な指標には必要ありません。そうした機能は、新規物体認識試験で物体への接近方向をみる場合や、社会的行動で個体を識別する場合に効いてきます。オープンフィールド試験だけを目的にするなら、オーバースペックになります。
つまり、オープンフィールド試験は、行動解析ツールのなかでもっとも基本的な機能で成立する試験です。このことは、ツール選びの選択肢を広げます。無料のツールでも対応できる、ということだからです。
無料ツールでどこまでできるか
オープンフィールド試験の基本指標に限れば、無料のツールで足ります。研究費をかける前に、まずこちらを検討して構いません。
国内でよく使われているのが、行動解析君(Mr. Behavior)という無料のソフトウェアパッケージです。含まれるTrackerというツールは、ROI(関心領域)を自由に設定でき、オープンフィールドを含む複数の試験に対応しています。Windows環境があれば、総移動距離やゾーン滞在時間の算出が可能です。
姿勢推定を行うDeepLabCutも選択肢になります。ただしこちらは、Python環境の構築、GPU、学習用データのアノテーションといった準備が必要で、オープンフィールド試験の基本指標を出すだけなら過剰な面があります。導入と習得のコストを考えると、対応できる人がいる研究室向けです。
次のすべてに当てはまるなら、無料ツールから始めるのが合理的です。
- 必要な指標が、総移動距離・中心滞在時間・進入回数・移動速度など基本的なもの
- 研究室にWindows PCがある
- 解析する動画の本数が限られている
- 環境構築や多少の試行錯誤に時間を割ける
有料のツールやクラウドサービスを検討する理由は、この条件から外れたときに出てきます。Windows PCがない、Macで完結させたい、大量の動画をまとめて処理したい、共同研究者と結果を共有したい、環境構築に時間をかけられない。そうした事情があるなら、次の選択肢が視野に入ります。
無料ツールを含めた各ツールの費用構造は、行動解析ソフトの価格比較記事で詳しく整理しています。
Be-Chaseでオープンフィールド試験を解析する
Be-Chaseは、動画をアップロードするだけで行動解析ができるクラウド型のサービスです。オープンフィールド試験で必要な指標は、いずれも標準機能でカバーしています。
この記事を掲載しているのはBe-Chaseの運営元です。以下は自社サービスの説明にあたります。
撮影した動画をアップロードし、アリーナの範囲と追跡対象を指定すれば、総移動距離や移動速度が算出されます。中心区画は、マウスのドラッグ操作で任意の矩形または円形として設定でき、複数の領域をそれぞれ名前をつけて指定できます。中心区画を1/9にするか中央50%にするかといった定義の違いにも、区画の大きさを変えるだけで対応できます。設定した各区画について、滞在時間と進入回数が数値化されます。結果はCSVと画像で出力されるため、統計解析ソフトにそのまま取り込めます。
関連する解析の詳細は、それぞれ個別の記事で説明しています。
- 総移動距離と移動速度の算出については移動距離と速度の解析
- 中心区画の滞在時間・進入回数の数値化についてはエリア別の行動解析
- 滞在の偏りを視覚的に捉えるにはヒートマップによる可視化
クラウド型のため、Windows PCや専用の解析装置は必要ありません。iPhoneやiPadで撮影した動画を、そのままアップロードして解析できます。既存の実験設備を変えずに始められる点が、従来のインストール型ソフトとの違いです。
なお、動物の行動をその場でリアルタイムに追跡したり、行動に応じて外部機器を制御したりといった用途には対応していません。オープンフィールド試験のように、撮影した動画を後から解析する使い方に向いています。
解析を始める前に整えておきたい撮影条件
自動解析の精度は、撮影条件に大きく左右されます。どのツールを使うにせよ、以下を整えておくと解析が安定します。
カメラは真上から固定する
アリーナ全体が均等に映るよう、天井または三脚で真上から撮影します。斜めから撮ると、遠近によって移動距離の計算に歪みが出ます。
背景と動物のコントラストを確保する
白いアリーナに黒いマウス、あるいはその逆。動物と床の色が近いと、自動追跡が対象を見失いやすくなります。
照明を均一にする
影やムラ、反射があると、それを動物と誤認したり、逆に動物を背景と誤認したりします。拡散光で均一に照らすのが理想です。
フレーム内に余計な動きを入れない
ケーブルの揺れ、実験者の手や影が映り込むと、追跡のノイズになります。
撮影がうまくいかなかった動画は、解析の段階で苦労します。逆に、撮影条件さえ整えておけば、どのツールでも安定した結果が得られます。
まとめ
- オープンフィールド試験は、不安様行動(中心滞在の回避、接触走性)と自発運動量(総移動距離、速度)を同時にみられる定番試験
- 主要指標は、総移動距離・中心滞在時間・中心進入回数・移動速度・外周滞在。中心区画の定義は論文に明記する必要がある
- これらの指標は、動物の中心点を1点で追跡できれば算出できる。鼻先などの部位追跡は不要
- 基本指標に限れば、行動解析君などの無料ツールで足りる。Windows PCがあるなら、まずここから
- Windows環境がない、大量処理や共有が必要、環境構築に時間を割けない場合は、クラウド型などの有料ツールが選択肢になる
- 解析の精度は撮影条件で決まる。真上からの固定撮影、コントラスト、均一な照明を整えておく
オープンフィールド試験は、行動解析の入口です。まず何を測りたいかを決め、それに必要な機能を持つツールを選ぶ。基本指標だけなら、無料で始められます。
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Be-Chaseは、マウス・ラットの行動を動画から自動で解析するクラウド型のサービスです。オープンフィールド試験の総移動距離、中心滞在時間、進入回数、移動速度に対応しています。インストールや専用装置は不要で、Webブラウザだけで使えます。
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