DeepLabCutとは|できること・できないこと、導入に必要なもの

マウスやラットの行動実験の解析を調べていると、必ずDeepLabCutという名前に行き当たります。無料で使えて、論文でも広く引用されている。ただ、実際に何ができるのか、自分の研究に必要なのかは、名前だけではわかりません。

この記事では、DeepLabCutが何をするツールなのかを整理します。あわせて、どういう研究では必要で、どういう研究では過剰になるのかも扱います。ツールを選ぶ前の判断材料として読んでください。

DeepLabCutとは何か

DeepLabCutは、動画から動物の体の位置を自動で読み取るオープンソースのソフトウェアです。2018年にMathisらがNature Neuroscienceで発表し、現在も研究チームによって開発が続けられています。無料で、商用利用を除けば制限なく使えます。

特徴は「マーカーレス姿勢推定」という点にあります。

従来、動物の動きを精密に追うには、体に反射マーカーを貼るなどの処置が必要でした。DeepLabCutはそれを不要にします。動画の何フレームかに対して「ここが鼻先」「ここが尾の付け根」と人が印を付け、それを学習させることで、残りのフレームを自動で処理します。

印を付ける場所は自分で決められます。鼻先、耳、前肢、後肢、尾。研究の目的に応じて、必要な部位だけを追跡できます。ここが「user-defined(利用者が定義する)」と呼ばれる所以です。

対象も齧歯類に限りません。魚類、昆虫、大型動物、ヒトまで、同じ枠組みで扱えます。

何ができるのか

DeepLabCutが直接出力するのは、各フレームにおける各部位の座標です。「フレーム1200で、鼻先は(x=340, y=182)にあった」というデータが、指定した部位の数だけ、全フレーム分そろいます。

このデータから、次のようなことが読み取れます。

姿勢と体の向き

鼻先と尾の付け根の位置関係から、体軸の向きがわかります。頭がどちらを向いているかは、新奇物体認識試験で物体への関心を測るときに効いてきます。

部位ごとの動き

前肢だけの軌跡、後肢だけの軌跡を分けて取れます。歩行解析やリーチング動作の評価では、これが必須になります。

細かい行動の検出

グルーミング、立ち上がり、首振りといった行動は、複数の部位の位置関係が特定のパターンを取ったときに起きています。座標データがあれば、こうした行動を機械的に検出する土台ができます。ただし検出そのものはDeepLabCutの機能ではありません。座標データを別のツール(SimBAなど)に渡して分類する、という二段構えになります。

複数個体の同時追跡

2022年以降、複数の動物を同時に追跡し、個体を識別する機能が加わりました。社会性行動の実験で使われています。

中心点の追跡と何が違うか

ここが、ツールを選ぶうえで一番重要な分岐点です。

行動解析には、大きく2つのやり方があります。動物を1つの点として追う方法(重心追跡、中心点追跡)と、体の複数部位を別々に追う方法(姿勢推定)です。

DeepLabCutは後者です。そして後者は、前者にできることを全部含んでいます。部位の座標があれば、その平均を取れば中心点も出ます。

では常に後者が良いのかというと、そうではありません。必要な指標によっては、前者で十分だからです。

たとえばオープンフィールド試験の主要指標は、総移動距離、中心滞在時間、中心進入回数、移動速度です。これらはすべて「動物が平面上のどこにいるか」だけで算出できます。鼻先がどちらを向いているかは要りません。

高架式十字迷路、明暗箱、Y字迷路も同様です。どの区画に、どれだけの時間いたか。それが指標である限り、中心点1点で足ります。

一方、姿勢推定でなければ測れないものもあります。

  • 物体への接近方向(新奇物体認識試験での「鼻先が物体を向いていた時間」)
  • 歩行時の各肢の動き(運動機能の評価)
  • グルーミングや立ち上がりの詳細な分類
  • 社会性行動での個体間の位置関係と向き

自分の研究がどちらに属するかを先に決めると、ツール選びが早く終わります。

関連する指標の考え方は、オープンフィールド試験の解析方法総移動距離と移動速度の正しい評価方法でも整理しています。

導入に必要なもの

無料であることと、コストがかからないことは別です。DeepLabCutを動かすには、次のものが要ります。

Python環境

DeepLabCutはPythonのパッケージとして配布されます。AnacondaやMinicondaで環境を作り、pipでインストールする、という手順を踏みます。研究室にPythonを扱える人がいるかどうかが、最初の分かれ目です。

NVIDIAのGPU

学習と解析には、NVIDIA製のGPUと対応するドライバが推奨されています。CPUだけでも動きますが、学習にかかる時間が現実的でなくなります。

AppleシリコンのMacについては対応が進んでいますが、公式が前提としているのはNVIDIAのGPU環境です。Mac中心の研究室では、ここが最初の壁になります。

アノテーションの作業時間

自分のデータで学習させる場合、動画からフレームを抜き出し、1枚ずつ手で部位に印を付ける作業が発生します。何百枚という単位です。これは自動化できません。

バージョン管理の手間

2026年時点の最新はDeepLabCut 3.0で、内部の仕組みがPyTorchベースに刷新されました。従来のプロジェクトとの互換性は保たれていますが、PythonやCUDAのバージョンの組み合わせで動かなくなることは起こります。導入時のトラブルシューティングは、ある程度覚悟が必要です。

学習作業を省ける場合がある

上の「アノテーション」は、条件によっては不要になります。

DeepLabCutには SuperAnimal という、あらかじめ学習済みのモデルが用意されています。

  • SuperAnimal-TopViewMouse … 真上から撮影したマウスの動画向け。26点の部位を推定
  • SuperAnimal-Quadruped … 四足動物全般向け。39点の部位を推定

自分のデータに近い条件であれば、学習をせずにそのまま解析できます。真上からマウスを撮影する一般的な行動実験なら、前者が候補になります。

「DeepLabCutは大変」という評判の相当部分はアノテーション作業に由来するので、ここが省けるかどうかは事前に確認する価値があります。

GPUがない場合の選択肢

研究室にGPU搭載マシンがない場合、Google Colab で動かす方法があります。公式がノートブックを配布しており、ブラウザからGoogleのGPUを借りて実行できます。

無料枠でも試せますが、連続実行時間に制限があるため、長時間の学習には有料枠が必要になることがあります。とはいえ、GPUマシンを購入する前の検証としては現実的な選択肢です。

論文で使うときの扱い

DeepLabCutはオープンソースですが、論文で使用した場合は原著論文の引用が求められます。公式ドキュメントに引用すべき文献の一覧があるので、投稿前に確認してください。

無料ツールを使うこと自体が査読で不利になることはありません。むしろ広く使われている手法なので、再現性の観点ではプラスに働きます。

他のツールとの位置関係

姿勢推定を行うツールは、DeepLabCutだけではありません。SLEAPも同じ領域で使われています。また、姿勢推定の結果から行動を分類するSimBA、動画を目視でコーディングするBORISなど、目的の異なるツールが周辺にあります。

有償のソフトでは、EthoVision XTやANY-mazeが長く使われてきました。こちらは中心点の追跡を基本としつつ、試験ごとのテンプレートやサポートが整っている点が違いです。

各ツールの費用の考え方については、マウス・ラットの行動解析ソフト 価格比較で整理しています。

Be-Chaseとの関係

この記事を掲載しているのはBe-Chaseの運営元です。以下は自社サービスの説明にあたります。

Be-Chaseは、動画をアップロードするだけで行動解析ができるクラウド型のサービスです。追跡は中心点1点で行います。姿勢推定は行いません。

したがって、部位ごとの追跡が必要な研究には向きません。歩行解析、物体への接近方向、グルーミングの分類といった用途では、DeepLabCutが適しています。

一方で、総移動距離・滞在時間・進入回数・移動速度・静止・回転といった指標が目的であれば、Be-Chaseで完結します。インストールもGPUも不要で、Macのブラウザからそのまま使えます。アノテーション作業もありません。

DeepLabCutで環境構築の見通しが立たない場合、あるいは必要な指標が中心点で足りる場合の選択肢として考えてください。

まとめ

  • DeepLabCutは、動画から動物の体の部位ごとの座標を自動で取得するオープンソースのツール
  • 出力されるのは座標データ。行動の分類はそこから別途行う
  • 中心点1点の追跡でも足りる試験は多い。オープンフィールド、高架式十字迷路、明暗箱などが該当する
  • 姿勢推定が必要なのは、接近方向、歩行、細かい行動の分類、社会性行動など
  • 導入にはPython環境とNVIDIA GPUが前提。アノテーション作業も発生する
  • SuperAnimalの学習済みモデルを使えば、条件次第でアノテーションを省ける
  • GPUがない場合はGoogle Colabという選択肢がある

まず「何を測りたいか」を決める。そのうえで、中心点で足りるのか、部位ごとの追跡が要るのかを判断する。順番を逆にすると、必要のない環境構築に時間を使うことになります。

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