滞在場所の偏りを定量化|動画解析サービスBe-Chaseのジニ係数活用術

「ヒートマップで行動が変化したように見えるが、これを客観的な数値で示せないだろうか?」

「薬剤Aと薬剤B、どちらがより探索行動を促進したかを、統計的に比較したい」

このようなニーズに応えるのが、動画解析サービスBe-Chaseに搭載されたジニ係数の分析機能です。

ヒートマップによる直感的な理解に加え、ジニ係数を用いることで、ターゲットの滞在場所の「偏り」を0〜1のシンプルな数値で客観的に評価し、論文や学会発表でも説得力あるデータを提示できます。

ジニ係数の分析機能は動物実験だけでなく、店舗内の滞在解析やスポーツ選手の行動可視化など、あらゆる空間データの定量評価に役立つと考えられます。
この記事では、薬理・神経科学・環境評価など分野での次の研究テーマへのヒントもご紹介します。

ジニ係数とは?空間利用の「集中度」を測るモノサシ

ジニ係数は、もともと経済学において所得の不平等さ(格差)を測るための指標です。Be-Chaseでは、この考え方を空間分析に応用しています。

  • 経済学での「所得」行動分析での「各エリアでの滞在時間」
  • 経済学での「個人」行動分析での「マップを分割した各エリア」

つまりジニ係数は、「滞在時間」というリソースが、実験エリア内の各場所にどれだけ不平等に分配されているか、すなわち行動の空間的な集中度を示す指標となるのです 。

Be-Chaseの滞在時間ヒートマップ分析機能では、ターゲット(マウスなど)が実験エリア内のどの場所に、どれくらいの時間滞在したかを色の濃淡で可視化します。この機能はエリア全体の滞在状況を俯瞰的・直感的に把握することに威力を発揮しますが、一方で長時間滞在しているエリアが偏っているのかどうかを数値的・定量的に評価することが難しいという面もあります。
そこでBe-Chaseでは滞在時間の偏りを定量的に表す手法として、ジニ係数を容易に利用できる分析機能をヒートマップ分析と併せて提供しています。ジニ係数は、ヒートマップで赤く表示されたエリアへの集中度を、客観的な一つの数値で表現します。

ジニ係数の数値は0から1の範囲で示され、以下のように解釈できます。

  • ジニ係数が0に近い:エリア全体を均等に探索している状態。特定の場所へのこだわりが少ないことを示します。
  • ジニ係数が1に近い:ごく一部の特定の場所に滞在が集中している状態。巣やケージの隅に留まる傾向が強いことを示します。

【研究での活用事例】ジニ係数で「瞳孔の反応のムラ」を捉える

ジニ係数は、生理現象のような時系列データの「ばらつき」を評価する指標として応用されています。権威ある科学誌『Scientific Reports』(Nature姉妹誌)に掲載されたこの研究では、このジニ係数が医学・生理学の分野で独創的に活用されました。

  • 研究の目的: 光を当てた際の瞳孔の反応が、時間経過の中で「安定的で均一」なのか、それとも「特定の時点に反応が集中する、ばらつきの大きい」ものなのかを、単一の数値で評価すること。
  • ジニ係数の活用: この研究では、光に対する瞳孔の反応(縮小・拡大)を記録した時系列データにジニ係数を適用しました。これにより、反応の不均一性(ムラ)を定量化しました。
  • 明らかになったこと: ジニ係数を用いることで、瞳孔対光反射という生理現象に見られる個人差やその時々の変動性を、客観的に捉える新しい指標となりうることが示唆されました。

このように、ジニ係数は本来の経済学の枠を超え、「ある分布の偏りや不均-一性」を測る普遍的な指標として、多様な科学分野で役立つことを示す好例です。

※本研究はBe-Chaseが使用されたものではありません。一般的なジニ係数の考え方を活用した研究事例としてご紹介しています。

引用元論文: Iuneva, A., N B, A. & Drozdova, E. Gini coefficient as a measure of the variability of the pupillary light reflex in healthy subjects. Sci Rep 13, 10291 (2023). https://www.nature.com/articles/s41598-023-37464-8

コラム:ジニ係数の計算手順

ジニ係数を空間の分析に応用する計算手順を以下に解説します。

  1. マップの分割
     まず観察エリアを N×M のグリッドに区切ります。各セルは解析単位となり、場所ごとの滞在時間を記録する準備をします。
  2. セルごとの滞在時間を集計
     行動データから、各セルで対象がどれだけ長く滞在したかを計算します。これにより「滞在時間分布」が得られます。
  3. 累積比率を算出してローレンツ曲線を描画
     セルを滞在時間の少ない順に並べ、横軸にセルの累積割合、縦軸に滞在時間の累積割合をとってプロットします。この曲線がローレンツ曲線です。
  4. 面積差からジニ係数を算出
     完全に均等な分布(等分配線)とローレンツ曲線の間の面積差を求め、その2倍をジニ係数として計算します。値が0に近いほど均等、1に近いほど偏りが大きいことを示します。

Be-Chaseを利用すればこのような複雑な分析も設定不要で自動で行うことができます。


数値から行動を読む:ジニ係数の解釈の目安

「この数値なら偏りがある」という絶対的な基準はありませんが、一般的な目安を動物の行動に当てはめてみましょう。

ジニ係数偏りの度合い考えられる行動パターンの例
0.3 未満偏りは小さいオープンフィールド内を活発に動き回り、特定の場所への執着が見られない。探索行動が非常に活発な状態。
0.3 〜 0.5ある程度偏りあり巣や給水ボトル周辺など、いくつかのお気に入りの場所はあるが、それ以外のエリアも比較的探索している状態。
0.5 を超える偏りが大きいほとんどの時間を巣やケージの隅など、1〜2箇所の特定の場所で過ごしている。恐怖によるフリーズや、休息状態が考えられる。

まずは**「0.5」**という数値を一つの基準点として、「それを超えたら滞在場所がかなり集中している」と判断すると分かりやすいでしょう。

ジニ係数を取り扱う上での注意事項

  • ジニ係数の閾値は実験条件依存です。 ジニ値はグリッド幅・観察時間・追跡精度に敏感なため、各実験ではまずベースライン群のジニ分布(中央値・IQR)を示し、ブートストラップや置換検定で群間差の有意性を確認してください。
  • ジニ値は行動の ‘偏り’ を示しますが、それが「不安」なのか「休息」なのかは単独では判定できません。 Be-Chaseでも分析可能な距離移動量・移動速度・停止時間などの指標と併用して解釈してください。
  • 統計手法の推奨:サンプル数が小さい場合は置換検定/ブートストラップで差の確からしさを評価、連続的・境界(0–1)の応答を扱う場合はベータ回帰等の専用モデルを検討してください。

ジニ係数の真価は「比較」にあり

ジニ係数を分析で利用する上で最も価値があるのは、絶対値で判断することよりも、異なる条件下で数値を比較することです。(※以下のジニ係数は説明用の仮想データです。)

比較例1:薬剤投与群 vs プラセボ群

  • プラセボ群のジニ係数:0.65
  • 抗不安薬投与群のジニ係数:0.35

分析:「プラセボ群は隅に固まる傾向(高い偏り)を示したが、抗不安薬を投与した群では、活動範囲が有意に広がり、滞在場所が分散した(偏りが小さい)」と定量的に示すことができます。

比較例2:刺激前 vs 刺激後

  • 新規物体導入前のジニ係数:0.30
  • 新規物体導入後のジニ係数:0.60

分析:「導入前はケージ内を均等に探索していたが、新規物体を導入した後は、その物体周辺での滞在が著しく増加し、行動の集中度が高まった」と客観的な数値で比較できます。


研究テーマの提案:Be-Chaseジニ係数分析が拓く新たな行動分析の可能性

この客観的な数値指標は、あなたの研究をさらに深化させます。

  • 精神薬理学:薬剤効果の精密な定量化
    抗不安薬や抗うつ薬が、オープンフィールド試験において探索行動をどれだけ促進したか(=ジニ係数をどれだけ低下させたか)を正確に数値化。用量依存的な効果の検証も容易になります。
  • 発達・社会性研究:行動パターンの定量的評価
    自閉症モデル動物などに見られる「常同行動(同じ動きを繰り返す)」を、滞在場所の極端な集中(非常に高いジニ係数)として捉えることができます。健常群との差を明確な数値で示すことで、病態の評価や治療薬の効果測定に繋がります。
  • 環境エンリッチメントの評価
    飼育環境の豊かさ(エンリッチメント)が動物の行動に与える影響を評価。標準的なケージ(高ジニ係数)と、おもちゃなどを入れた豊かなケージ(低ジニ係数)での数値を比較することで、「エンリッチメントが探索行動を促し、行動の多様性を高めた」ことを客観的に論証できます。

以上のような医学・薬学系に近い領域だけでなく、対象物の移動に関わるデータを分析する様々な科学領域でも活用も考えられます。

心理学・認知科学

  • 実験室での被験者の探索行動や視線誘導課題

スポーツ科学

  • トレーニング中の選手単体の動きの集中度評価

環境学・生態学

  • 自然環境下で個体識別タグを装着した動物の単独行動域評価

工学・ロボティクス

  • 自律移動ロボットの探索アルゴリズム検証

ジニ係数は、ヒートマップの視覚的な印象を裏付ける強力な武器です。行動の変化や群間の違いを、誰もが納得する客観的なデータとして提示し、あなたの研究を次のステージへと進めてください。


Be-Chaseロゴマーク
Be-Chaseは、いつでも誰でも簡単にプロ品質の行動定量化・分析ができる動画解析サービスです。実験データの客観評価を通して、研究者の『なぜ?』を次の発見へ導きます。  
サービスの詳細はこちら>